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誠品生活日本橋のガラス工房「日本橋玻璃工房」とは? 美術作家・佐々木怜央インタビュー
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2024年9月に5周年を迎えるコレド室町テラスの2Fにある、「台湾発!くらしと読書のセレクトショップ」の誠品生活日本橋。その中でも、ひときわ異質な存在感を放つ「日本橋玻璃工房」をご紹介します!
東京都心の商業施設では唯一となる本格的な溶解炉を備え、台湾の誠品生活松菸店でも人気の吹きガラス体験を楽しめるガラス工房です。
今回は、日本橋玻璃工房にアドバイザーとして関わり、同工房で子供向けのワークショップや作品の公開制作も行っている美術作家・佐々木怜央さんにインタビュー。これまでの作家活動をとおして感じた、ものづくりやガラス工芸の魅力についてお話を伺いました。
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【INFORMATION】
コレド室町テラスでは、開業5周年を記念し、「COREDO室町テラス5th Anniversary」を9月13日(金)~10月6日(日)に開催!
誠品生活日本橋では9/28(土)~9/29(日)にかけて24時間営業を行います!
さらに!COREDO室町テラス5周年特別企画として、誠品生活日本橋を運営する有隣堂の公式YouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」がYouTubeライブを開催!ぜひご覧ください。 -
生き物好きの少年が美術作家になるまで
1990年、青森県黒石市に生まれた佐々木怜央さん。幼少期から自然豊かな環境の中で過ごすことが多かったこともあり、好きな教科は生物と地理だったそう。
自身が身を持って知ったものとリンクしていくことこそ大切だと感じ、高校卒業後には農学系の大学に進もうと考えていたといいます。
そこから美術系大学への進学に舵を切るきっかけとなったのは、同郷の現代美術家・奈良美智さんが弘前市で開催した『NARA YOSHITOMO + graf A to Z展』に、高校生のボランティアスタッフとして参加したことでした。小学生のころから解剖図鑑の模写をするなど、絵を描くこと、粘土で立体を作ること自体は身近にあったという佐々木さんですが、そこで触れた奈良さんをはじめ、世界の第一線で活躍する作家たちの作る空間に大きな衝撃を受け、美術の道に進むことになります。
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ガラスをとおして表現にどう向き合うのか
佐々木さんのガラス作品は主に、電気炉を使ってガラスを鋳込む「キルンキャスト」という技法で作られています。
「ガラスの工芸的な美しい仕上げよりも、僕は型に使った石膏が表面に少し残っていて、光を溜め込んでいるような質感が好きなんです」ガラスを鋳込むための石膏型の原型となるのは、ワックス、紙、粘土、スチレンボード、果物などさまざま。なるべく面白いと感じた素材は型取りに挑戦しているそうです。
「最近は失敗することが少なくなってきているので、それがよくないなと思っていて。失敗するときは、新しいことに挑戦しているときだから。それに失敗を修正することで、想定していたよりもおもしろい作品になることもあるんです」「だから失敗した作品を廃棄することはありません。久しぶりに見ると結構いいなと感じることもありますしね」
「ガラスの作品って、保存状態が良ければ1000年持つ。僕はずっとあり続けるということがガラスの魅力のひとつだと思いますし、それに対して強迫観念のようなものがあるんです」 -
子供とアートの幸福な関係
現在は、自身のアトリエでの作品制作とは別に、日本橋玻璃工房にも関わる佐々木さん。今年の8月には同工房で、自身のドローイングとデカルコマニーという手法を用いた、子供向けのワークショップも開催しました。
デカルコマニーとは、紙に絵の具を塗って二つ折りにして開く、フランス語で「転写」を意味する絵画技法。佐々木さん自身が中学校のときに習った技法で、それまで学校で教えられてきた美術のルールから開放され、すごくおもしろかった記憶があるそうです。
「最近は美術や図工が苦手な子供が増えているそうです。絵に対して苦手意識がある子もいるので、意図したような、意図していないような不思議な模様が偶然にできて、そこから自由に想像できるデカルコマニーがいいなと思いました」「絵には本来、上手い下手もないのに、長く美術をやっているとどうしても技巧的に正しいとされるものを求めてしまう」という佐々木さん自身、どんな絵を描いても失敗という概念が存在しない子どもたちと関わり合うことで得られるものが大きいそうです。
また、今年父となったことで、他の子供に対しての解像度も高くなり、よりしっかり向き合えるようになったと感じていると話します。
「いま家に0才児がいて、やっぱり気は使ってしまうんですけど、本当は怪我をしたときにこそいろんなことを覚えられるよなと思って、なるべく自由に育てることの大切さを改めて意識したり。あとは僕が制作しているときは妻が育児をしてくれているので、そういう状況でいいかげんなものは作れないぞと思ったり。真剣に作ることはもちろん、なぜ作るのか、そのテーマは妥当なのか、さらに深く考えるようになりました」 -
ガラス工芸を体験する価値とは
真っ赤に溶けたガラスに息を吹き込む吹きガラスをはじめ、ガラスに模様を刻む切子など、さまざまなメニューがある日本橋玻璃工房。複数人でも手軽に体験できる箸置きづくりなども人気で、最近では海外のお客様も増えているそうです。
「日本でガラス工房といえば観光地によくあるイメージですが、こういった商業施設の中にあるのは本当に珍しいと思います。近代的な超高層ビルの2Fで1300度でガラスが溶けているというシチュエーションと、空調防災設備を見るだけでも価値がある」と話す佐々木さん。ガラス工芸の技法は「東京ガラス工芸研究所」に所属する職人がレクチャーするため、初体験の方でも心配は無用です。
「ガラスは技術的にも技法的にも趣味では扱いづらいので、こういうところで先生に習えるというのは貴重ですよね。近辺で働くオフィスワーカーの方はぜひ一度体験してみてほしいです」
最後に、佐々木さんが考えるガラス工芸の魅力について伺いました。
「ガラスっておもしろいんです。飴状のガラスが放つ放射熱、薄っすらと赤みを帯びた高温のガラスは本当にきれいで、その状態の物質に触れることは人生においてもほとんど経験できないことだと思います。そして、自分が作ったガラス作品を受け取ったときにはすごく静かで冷たいと感じるはずで、そういう思い出は一生残るものになる。ガラスは割れなければ一生使えますからね」
ガラス工芸の魅力を多くの人に知ってもらうためにも、佐々木さんは日本橋玻璃工房をもっと開かれた場所にしたいと意欲をみせます。
「僕がここで作業をすることで、少しでも興味を持ってもらいたいんです。日本橋玻璃工房で体験できるのは吹きガラスですが、ガラス作家としてそれ以外の技法もあることを知ってほしいという気持ちもあります。みんながもっと気軽に訪れる場所になればうれしいです」
ガラス工芸のワークショップがない日でも、ぶらりと寄ってみれば、作業中の佐々木さんに会えるかもしれません。ぜひお気軽に、日本橋玻璃工房を覗いてみませんか。 -
【INFORMATION】
9月28日(土)には、誠品生活日本橋が24時間営業を実施!
さらに有隣堂・24時間公開YouTubeライブ配信も!1995年に世界で初めて24時間営業を行う書店として話題を集めた誠品書店。2024年からは誠品生活松菸店が24時間営業を引き継いで続けています。
ここ、誠品生活日本橋でも、9月28日(土)に1日限りの24時間営業の実施が決定! 営業中はさまざまなカルチャーに出会えるイベントが目白押しです。
さらに、コレド室町テラス5周年特別企画として、誠品生活日本橋を運営する有隣堂の公式YouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」がYouTubeライブを開催!ぜひご覧ください。イベントタイムスケジュール 11:00~12:30 台湾華語講座 入門 13:30~15:00 台湾華語講座 初中級 17:00~18:30 映画トークイベント『映画-あなたとわたしと』
秦早穂子さん × 中村由紀子さん トークイベント20:00~ 台湾夜市遊戯 22:00~ 流動商店 三文字昌也さん トークイベント
台湾「夜の都市生活」の過去と未来23:30~01:00 映画上映:台湾映画『台北の朝、僕は恋をする』 02:00~ 『深夜書店 恐い丑三つ怪談』松原タニシさん トーク&サイン会 04:00~ 映画上映:台湾映画『風が踊る』